東陽軒は大正14年に開店しました。この87年間、時代に合わせていろんな商品の工夫をしてきました。思えば私どもが小さい頃は、行事などのたびに一家総出で餅をついていました。というのも、昔はお餅屋さんも小規模なお店が2軒ぐらいだったから、お餅屋さんだけじゃ対応しきれなくて、お菓子屋さんも朝早くから夜遅くまで1台の臼で餅をついていたんですよ。餅は行事ごとに、よく利用される食べ物だったので、お客さんが「ついてください」っていう委託みたいな形でもち米を持ってきていました。従業員はもちろんいましたが、それでも大変な作業だったことを記憶しています。特に12月28日は“餅をつく日”と昔から言われていてね。その日にお餅をつくことが、縁起がいいっていうのか、何ちゅうのか。とにかくその日は特に大忙しでした。あとは、宗教関係でも餅をついてたかな。例えば神様にお供えする餅とか、地鎮祭の時に供える餅とかね。地鎮祭は一番最初に土地に対して安全を願うもので、そのときに供えるのが隅餅です。隅餅は、建物の四方の隅の柱におくから隅餅といいます。それから上棟式といって、建前に屋根の上から餅まきをするとか、神様にお供えをして祈とうしてお餅をまいたりとか、そういう行事にも利用されてきました。また今でも続いていますが、誕生日を迎えた子供に一升のお米で作ったお餅、つまり一升餅を背負わせ、健康や成長を願う誕生餅もあります。つまり、餅は主食であると同時に、嗜好品であったり、あるいはお祝いごとだったり、宗教と絡んだ使い方をしていたということです。

しかしまあ、名寄は日本で一番のもち米生産地でありますが、それを生かして商品を作るということにはとても苦労しました。名寄特産のもち米である「はくちょうもち」は固くなりづらいので、大福だとか、赤飯には重宝するんですが、お供え餅をつくるには作業がしづらいのです。はくちょうもちでついた餅はなかなか固まらず、お供えの形になりづらい。餅が速く固まらないと、餅の表面にできる膜にひびが入ってしまって、見た目も悪くなってしまいます。そういう扱いにくいところが名寄の「はくちょうもち」にはあります。また、他のお菓子にくらべて、もち米を利用したお菓子は日持ちが悪いんです。だから、もち米のお菓子の商品化はとても難しいんですよね。そのような中で苦労しながら、私どもの商品である「草分け」ができ上がりました。「草分け」には餅が入っていますが、時代によってやはりお客さんの好みも違ってきますから、その時代に合わせて餡この量を変えたり、砂糖の量を変えたりといろいろな工夫をして「草分け」を作ってきました。お客さんの口に合わない商品では商売にはならないということもありますが、地元の食材を使ってお菓子を作り続けたいという思いが強いからこそ、これからも工夫しながら地域に愛される「草分け」を作り続けようと思っています。

(注)昔から12月28日に餅をつくことが多く、29日は「苦持ち」と言い、苦を一緒につきこんでしまうと敬遠されているが、逆に「ふく」に通じるとして29日に餅つきをするお寺もあるようです。

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